第2回おさかなシンポジウム
開催レポート
さかなを食べて
地球を守る
~ブルーカーボンとシーフード~
2024年9月29日、東京都・新木場の夢の島マリーナにて、第2回おさかなシンポジウムが開催されました。今回のシンポジウムテーマは「魚食」。魚を食べる習慣が減りつつあるなかで、どのような工夫が漁業の現場では行われているのか、また前回に続き海洋環境変化や漁業現場における工夫や取り組み、加えて企業ではどのような魚食の取り組みがおこなわれているのか、新たな学びから魚食について改めて考えるシンポジウムが開かれました。
overview
実施レポート
report
おさかなシンポジウムは2回目(第0回を含めると実質3回目)の開催となります。今回のシンポジウムでは『魚食』をテーマとした発表とディスカッションが行われました。前回に引き続き、司会者は環境系エンターテイナーの「WoWキツネザル」さん。冒頭に、参加者自身の自己紹介とともに、普段からどのような魚食、魚が好きか?という問いからスタートしました。
参加者のなかからは、焼きホタテに醤油、海鮮丼のサーモン、煮魚、焼き魚、アジフライ、お寿司、イワシ、サバ、さらに海にとどまらずアユといった意見もあり、広く魚食への関心の高さが伺えました。
さらに、今回は第2回目ということもあり、前回参加者には前回シンポジウムからどのような心境変化や行動をおこしたか、初回参加者には、魚食についてどのような興味関心事があるかということについても司会者のWoWキツネザルさんより問いかけがありました。
いまも刻々と変わり続ける海の環境
シンポジウム最初のプログラムは、東京水産振興会理事の長谷成人先生による特別講演からスタートしました。
2024年6月に開催された第一回シンポジウム中でも海の環境の現状についてのお話しがありましたが、わずか3ヶ月間でも海の中の環境は大きく変化していたようです。特に今年は海水温の上昇も著しく、一時は30度のまま、なかなか海水温が下がらなかったことなども触れられていました。
また海水温の上昇に伴い、ブリ、トラフグ、イセエビ等が北上したことで獲れていなかった魚が獲れ始めたことや、そういった魚をブランド化し販売するような新たな魚食への取り組みについてもスポットがあたりました。
しかし一方で、「今まで獲れていた魚が獲れなくなることは、新しい種類の魚が獲れたとしても、以前と同じ状態(環境的、経済的な効果も含めて)には戻れない。これは、文化がひとつ失われることです」という魚食文化の新たな課題について、重く受け止める必要があることも実感させられました。
シンポジウムを通して高まった環境保護活動
近年、海藻などのCO2貯留効果における評価手法が確立しつつあり、これをクレジット化し、カーボンニュートラルを目指す企業等と取引する「ブルーカーボンの取組み」が少しずつ広まりをみせています。
こうした取組みは、磯焼け対策、漁場価値の維持・向上、海の生態系の保全だけにとどまらず、最大の課題である地球温暖化対策として期待されています。
さらに、第一回シンポジウム内にて紹介された「ブルーカーボン」のクレジットを青木あすなろ建設株式会社が実際に購入されたというお話しもあり、このおさかなシンポジウムをきっかけに環境保護活動への関心の高まりを感じるものとなりました。
おいしく食べ、海洋保護活動に貢献を
最後に、海藻などを食べ尽くしてしまう魚の問題について、利活用を進めている団体の紹介がありました。近年、海水温があがってしまったことで魚の動きが活発になってしまい、藻場を食い尽くしてしまうという背景から、魚(アイゴ)の問題が大きく取り上げられるようになったそうです。
そのほかにも、普段はなかなか食べられていないイスズミなども調理方法次第では美味しく食べられることや、海藻を食べ尽くすアイゴなどが揚がった場合は、買取る活動なども行っている地方についても紹介されました。
具体的にどのような評価や計算方法で買い取られているのか、といった質問もあがり規模が大きな環境問題も「食べる」ことで貢献できるより身近な活動へとつながることに関心が集まりました。
藻類からはじまる新たな改革への挑戦
【岡部株式会社】
「岡部株式会社におけるブルーカーボン・ブルーフードへの取り組み」
発表:板倉茂さん
岡部株式会社からは、「ブルーカーボン・ブルーフード」への取り組みについてお話しがありました。ブルーカーボンとブルーフードへの大きな期待が寄せられる藻類を活用した、藻場造成について企業の取り組みを、動画などを通して説明いただきました。
藻類の定義は幅広く、「光合成を行う生物のうち、陸上植物を除いたものを指す」そうです。私たちが聞いたことのある代表的な藻類でいうと、大型藻類であるコンブ、ワカメ、ノリ、微細藻類としては、ユーグレナ、クロレラ、珪藻類などが対象です。
そのなかでも、ブルーカーボンの対象となるものは、ホンダワラ類(日本沿岸に60種類)、コンブの仲間(日本沿岸に40種類)、その他にはアラメ、ツルアラメ、クロメ、ワカメなどがあげられます。
ブルーカーボン(BC)とブルーフード(BF)
岡部株式会社は、ブルーカーボンの技術として海藻種苗の大量生産の研究を進めています。また、ブルーフード※の技術研究の取り組みとして、海藻養殖と藻場礁(藻場造成)についての実際の動画を見せていただきました。
※ブルーフードとは、海洋由来の食料資源を指しており、特に藻場(海藻が生育する場所)を活用した持続可能な食料生産に期待が高まっています。
この海藻の大量生産技術と、藻場礁の研究を掛け合わせ「海域の環境に応じた適切な藻場礁の設置」を行うことで、海藻がCO2吸収し、酸素を生み出す本来の効果と、海藻を住処にする生き物たちを増やすことへ貢献しています。
小さな藻類にかかる大きな期待
発表の中で、「微細藻類(珪藻類)」によるBC・BFの可能性についても解説がありました。冒頭に説明のあった藻類のうち「微細藻類」は一般的に目には見えないとても小さな生物ではありますが、地球の総光合成生産の約1/4を担い、かつ世界中に広く分布し、かつ多様な生態的役割をもつ生き物です。
海底の泥のなかには、休眠期細胞と呼ばれる陸上の植物でいう「タネ」が多く存在していることがわかっています。その「タネ」をうまく活用すれば、研究に大きく寄与できるのではという期待がかかっています。
グリーンレボリューションの次、ブルーレボリューションへ
最後に、今後の展望として「ブルーレボリューション」の推進にむけてのお話しがありました。
1960年代に始まったグリーンレボリューションという農業革命を例に、「ブルーレボリューション」による持続可能な食糧生産が期待されています。
現状では、海洋生物生産に関してはまだまだ未知な部分が多く、解明には時間がかかりそうですが、日本がリードできる分野としての期待が高まっていきそうです。
スナック菓子から魚食文化をより身近に
【株式会社おやつカンパニー】
「スナック菓子で実現する、新たな魚食の提案 手軽に気になる栄養素が摂れる、ヘルシー感覚の魚介のスナック「素材市場」シリーズのご紹介」
発表:香川玲子さん
株式会社おやつカンパニーは、「ベビースターラーメン」で知られる企業というイメージがあるのですが、今回はベビースターラーメンではなく、「魚を気軽に摂れるスナック菓子」についての取り組みや、企業としての想いをお話ししてくださいました。
なぜ魚をつかったスナック菓子に取り組むのか
冒頭に、ベビースターラーメンのブランド認知率は98.2%という圧倒的な知名度の高さを示す数字が発表されました。ほとんどの人がおやつカンパニーといえば…で想像するのは、このお菓子であることや、現在ではさまざまな種類のベビースターラーメンが発売されていること、ベビースターだけでなく、その他の商品でも時代の流れを汲み取った形状・包装形態での展開の工夫などについてお話しがありました。
一方で、人口減少や少子高齢化により、国内のスナック菓子市場が縮小することが予測されているのに対し、スナック菓子にも健康志向がすすみ、気軽に栄養素を補えるようなスナック菓子として、魚に注目し、魚をつかったスナック菓子を企画したそうです。
企画をすすめていくなかで、魚離れといわれている近年において、魚離れは魚が嫌いになっていることとイコールではないことが調査のなかでわかったそうです。
日常的に魚を取りたいと思っていても、魚介類の価格が高いことや、魚の調理がめんどうであること、また魚の調理方法を知らない、後処理が難しい(臭いの問題など)があり、家庭内でもなかなか魚を取り入れることが難しい状態であることもわかったそうです。
そこで、気軽に魚を摂れる商品をということでこの商品が誕生したとのことです。
手軽に気になる栄養素も摂れる、新たなブランドシリーズ
『素材市場』
今回、会場でも配られた『素材市場 いわしのスナック(ほんのり生姜香る、甘辛醤油味)』と『素材市場さばのスナック(ほんのりスパイスの風味香る、さばカレー味)』は、気軽に日常的に魚を取り入れることができるスナック菓子として、販売開始されました。さらに、2024年3月には、ファミリー層にむけて食べ切りサイズの『素材市場 いわしのスナック(あまからしょうゆ味)4連タイプ』も販売されています。
商品の裏側には、素材となった魚の豆知識なども印刷されており、「魚を知ってもらうきっかけづくりを」といったおやつカンパニーの魚食への想いがこめられていました。
これまで、スナック菓子の購買者の傾向として、シニア層は多くなかったそうです。しかし、今回の『素材市場シリーズ』は、シニアの方の購買も多いことからも、魚をスナック菓子で摂ることに対する需要は確実にあることが改めて分かった、とのことでした。
また、試食してもらったお子さまにも『素材市場シリーズ』は好評とのことで、子供から大人まで楽しめる新たな商品が誕生しました。
安定供給を目指した取り組みと魚食推進のための活動について
『素材市場シリーズ』は、販売をしてからまもなく、原料の調達先で魚が獲れなくなるという問題が発生したそうです。冒頭の長谷先生の話にもあったように、「さまざまな要因で急に魚が獲れなくなるという問題にまさに直面した。企業としては安定供給をめざすためにも、常にこの問題には取り組み続けている」というお話もありました。
お客さまに商品を届け続けるため、稼働している工場をストップさせないように、原料確保に奔走し現在では新しい仕入れ先が見つかったとのことでしたが、環境が常に変わり続ける海の問題は解決したわけではないため、今後も常に考えつづける必要があるとのことです。
最後に、今後のおやつカンパニーとしての魚食推進活動について紹介されました。魚に関するイベントへの出店や、全国の病院に勤務する管理栄養士さんの協力を得ながら『素材市場シリーズ』を通して正しい知識と魚食の意義を伝える活動、サステナブルな漁業を推進する漁師さんと組んだ商品開発も予定されています。
魚食と海洋環境について、もう一度考え直す
後半のディスカッションでは、今回の発表を通してどのようなことに興味・関心がわいたか、質問や新たな発見について議論が交わされ、時間が足りなくなるほど意見交換が活発でした。
おやつカンパニーへの取り組みには特に関心が集まり、「なぜ、その魚を選んだのか」といった商品企画への選定理由や、「調査結果にもあったように、魚の調理方法は案外知らない」「パッケージ裏に、より魚が好きになれるような豆知識が記載されているとよいかも」といった感想もあがりました。
今回参加した学生からは、「ついつい、調理や後処理が簡単なお肉を選んでしまう」、「魚(刺身)は、特別な日のご馳走といったイメージがあり、気軽に取り入れられていなかった」といった話題も取り上げられ、参加者が「確かに」と同意できるシーンがとても多かったことが印象的でした。
締めくくりに司会のWoWキツネザルさんから、「魚食などは身近なのによくわかっていない。これからは、普段からのWoW!(=驚き)を大切にし、海、魚、海産に対するWoW!を見過ごさないよう、次回にこのWoW!を繋げていきましょう」という話で、次回シンポジウム開催への期待とともに閉会となりました。
また、同時開催されていたエンジョイ魚まつりの期間内とあって、会場ではさまざまな全国から集った魚食を味わえるキッチンカーも多く見られ、参加者も魚食を楽しめたようです。